世界中をぷらぷらしてきた

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ホワイトホースを飛び立った小型のプロペラ機の機内はひどい騒音でCAの声すら聞きとり辛かった。座席にTVもついていないので暇つぶしするにも何もすることがなく、俺はただただ窓の外を眺めた。どこまでも永遠に続いていそうな雪山と、どんどん小さくなっていくホワイトホースの街を眺めながらオーロラの事を思い出す。タイから日本へ戻る時も、エジプトから戻る時も、ペルーから戻る時もそうだった。このどうしようもなく寂しくなる気持ち。旅をする中で何度も「早く日本に戻りたいなぁ」という気持ちは沸くが、どんな過酷な国や嫌な出来事があった国でもいざ帰国するとなると不思議と「戻りたくない」衝動に駆られる。これが旅の中毒性なのだろうか。NYを出てからの旅路を思い返しながら過ごしていると、バンクーバー到着まではそう退屈ではなかった。むしろ時間が足りない位だった。滑走路の一番端に着陸した飛行機から直に滑走路に降りて迎えに来たバスへ乗り込む。ホワイトホースの気温と比べると真冬と春先程の温度差があるが、全員がホワイトホースから帰ってきただけあって服装は相当な防寒だ。ターミナルに入ってジャケットをまるめ、ベルトコンベアーから流れてきたバックパックに押し込む。


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二度目のバンクーバーなので本日の滞在先は前回同様ギャスタウンのキャンビーホステルにする。空港から電車でウォーターフロント駅まで向かい、そこから徒歩で宿を目指す。なかなかどうして1度来ただけなのに迷わずにホテルへ辿りつくことができた。受付のピアスだらけの姉ちゃんに「覚えてる?」と尋ねてみると「もちろんよ!」との返事が返ってくるが、きっと覚えていないだろう。決まり文句の「1番安い部屋で」と伝えると、前回泊まった部屋と同じ場所へ案内された。さて、宿は確保したが何もすることがない。時刻は午後2時を回ったところだが外の天気はあまり宜しいとは言えない。地球の歩き方でバンクーバーの観光を調べてみるが、オリンピックの遺産を見て回るのが関の山だ。あまり興味はなかったが宿の部屋で帰国までの時間をゴロゴロと過ごすのは勿体ないので重い腰をあげて外へ出る事にした。


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世界一薄いビルというものと、バンクーバーオリンピックの聖火台を眺める。特になんの事はない。オーロラを見た後に見るべきものじゃないなと少々後悔しつつ、俺はバンクーバーの街中をあてもなく歩き回った。疲れたらベンチに腰掛け、小腹がすいたら露店でホットドッグを買い、喉が乾いたらコーヒーを飲んだ。つまらなかった。オーロラが強烈過ぎて何を見てもかすんでしまう。どこか移動してみようか考えてみたが残り日数も少ないのでまた10時間程のバスの移動は無理だ。バンクーバー近郊には自然豊かなアトラクションや観光名所もあるようだが、真冬に1人で行くものでもないだろう。


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結局この日、適当に見つけたショッピングモールの中を散策して時間をつぶし、夜になってから宿に戻る事にした。部屋に戻り荷物を置いて1Fにあるパブへ顔を出す。お決まりのカナダドライと適当なつまみを注文し、聞き取れなく意味も分からないTVのニュースを眺める。

そして数日後出国の日。


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いつも曇ったり雨ばかりのバンクーバーがこの日は晴れ渡っていた。ギャスタウンの蒸気時計に別れを告げ、空港へ向かう。飛行機が飛び立ち北米大陸が遠ざかっていく。


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日本へ帰国した俺は成田空港の書店へ真っ先に向かった。今回の旅の中でどうしても行きたくなった国が増えたのだ。その国の地球の歩き方を購入し、家へと戻った。
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Mちゃんを後部座席に乗せて丘を下る。カメラのバッテリーは2つ持っているが1つは使い切ってしまったので残りは一つだ。ここから湖畔のポイントまでは車で30分といったところなので充電する時間はないと思って間違いはない。多めに持ってきていたホッカイロをカメラ下部のバッテリーカバーへ二重に張り付け、俺は車を飛ばした。丘を下り大きな通りを横切り側道へ入る。街の光は遠ざかり路面を照らす光は車のヘッドライトだけとなった。ミラーで走ってきた丘の方を見ると先程まで見えていたオーロラは山の陰になってしまい見えなくなっていた。

俺「ねぇ、Mちゃん?オーロラ山に隠れてるけど大丈夫なのこれ!?」

M「う~ん、一応ひらけてるポイントだから見れるとは思うんだけど」

俺「おし!信じるよ!」

Mちゃんの指示で車は側道から更に側道に入る。路面はアスファルトから舗装のされていない道に変わった。丘を出発して30分、車は土手へと到着した。

M「ここ!ここ曲がって」

俺「ここ?!これ川じゃないの?」

M「ううん、ここ湖なの。ずーっと奥まである大きな湖だから、この湖畔がポイントだよ」

俺「車で入れる?」

M「一番奥までは無理かもだけど、途中の広くなってる場所までなら行ったことあるよ」

俺「OK!じゃあ、とりあえずそこまで行ってみようか!」

土手を駆け上がりそして下ると目の前には巨大な湖が広がっていた。車はそのまま5分程走る。圧雪なのでタイヤがスタックしてしまわないように慎重に進むと開けた場所が現れた。

M「ここ!!」

俺「おっけ~!どれ、降りてみよっか」

車のエンジンを止め外へ出ると、完全な暗闇がそこには広がっていた。何の音もしないが空を見あると無数の星がそこには広がっており、実に吸い込まれてしまいそうな星空だった。流れ星の音が聞こえてきそうな空を眺めているとMちゃんが口を開いた。

M「あ!オーロラ!」

俺「!!!!」

星空に気を取られていてスッカリ忘れていた。

俺「どこどこ!?あ!!!」


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そこには今まで見た事のないオーロラが空に輝いていた。

俺「なんか小さいけどカーテンみたいになってる!」

M「うんうん!」

俺「結構近くない?なんか思ったより全然ショボいけど、遥か遠くの山の向うにあったやつじゃなくて、こうして目の前に出てくれたの見れて良かったよ」

M「あ!!あ!!!」

俺「おおお!」

それは一瞬の出来事だった。


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M「近付いてきてる!どうしよう!?どうしよう!?」

俺「おおお!」

M「ほら!!ほら!!!ウネウネしてる!もっとこっちにくるよ!!!」

俺「うおおおおおおお!!!!」

M「あ!!!ほら~!!ほらほら!!目でカーテン見えるよ!!!凄い!!!」

俺「カメラ!!!カメラ出さないと!」


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それからは至福の時間だった。俺のカメラ技術がなくて上手に撮影できなかったが、オーロラはやがて俺達の頭上へやってきて真上から降り注ぐ形となった。光のカーテンが見上げると頭上でうねっている。気温は既に氷点下二桁台に突入しているというのにテンションが上がり過ぎて寒さを感じない。それからオーロラが消えるまでの間、俺は空を見上げ続けた。まるで生きているようだったオーロラは次第に薄くなっていき、本当にいつの間にか消えていなくなった。そして空にはまた無数の星だけが光るようになっていた。

俺「Mちゃん~!!!」

M「うん!」

俺「ありがとおおお!!凄かったよー!!」

M「ね!!凄いよね!!!私もここに来て1番凄いオーロラだったよ!」

俺「うおおおおおお!!!オーロラ見たぞおおお!!!」

M「これね、多分ブレイクって言うんだよ」

俺「ブレイク?」

M「そう。オーロラにもレベルがあって、1~5まであるんだけど凄いオーロラをブレイクっていうの」

俺「へぇ~!じゃあ凄いの見れたってことだよね!?」

M「うん!勿論!あれ以上ってなかなか見れないよ!」

俺「やったああああああああ!!」

M「はぁ~、最初はちょっと面倒だったけど来て良かった~」

俺「ほんと有難うね~!あ!Mちゃん明日仕事なんだよね?送るよ」

M「うん!ありがと~!私も友達に自慢しよ~!」

それから俺はMちゃんを送り、宿へ戻ってきた。静かにドアを開けベッドへ戻ったが興奮のあまりに眠る事ができなかった。すぐさまカメラで撮影したオーロラを見たかったが、急にカメラを室内に持ち込むと結露で壊れてしまうので車の中へ置いたままだ。やっとだ。やっとここまできた。NYを出発して無謀とも思える旅が無事完結した瞬間だった。今まで色んな場所へ旅をしたけど、いつも旅の終わりは心残りばかりだった。「○○に行くんだった」「あの時ああしてれば・・」だけど今日は違った。ただただ満足だった。

目が覚めるとすっかり陽は昇っていた。あれだけ眠れなかったのに気がつくといつの間にか眠っていたようだ。今日はホワイトホースからバンクーバーまで戻らなくてはならない。飛行機の時間は夕方なのでそれまでに荷物をまとめて宿をチェックアウトし、レンタカーを返さなくてはならない。午後1時、俺は管理人にオーロラを無事にみることができたと伝え、宿をチェックアウトした。


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バックパックを助手席に放り投げ空港の目の前にあるレンタカー屋を目指す。ホワイトホース滞在の間ずっと一緒だった名前も分からないアメ車だが、いざ別れがくるとMさんと別れるより寂しかった。そういえばMさんは今頃何をしているのだろう。Mさんが帰国してからすぐオーロラを見れたと言ったら怒るのだろうか。フライトの3時間前に空港へ到着し、荷物を預ける。何もない空港なので何もすることがない。


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もう来ることはないだろう。誰もいないレストランで少し遅めの昼食を食べながら、凍てついた滑走路を眺め今回の旅を振り返る。遠かった。NYからただただ遠かった。だけどそのせいか達成感はあった。俺はこれからも旅を続けられるのだろうか。思い返せばタイからはじまった俺の一人旅。何も考えないで思うがまま行動した結果縦断することになった中東。あの頃から比べると少しは成長したのだろうか。

そんな事を考えつつ過ごし、俺は再びバンクーバーへ向かった。
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俺のホワイトホース滞在の時間も徐々に少なくなってきた。あと数日で俺はバンクーバーに戻らなくてはならなく、バンクーバーへ戻ったら僅か1日滞在しただけで翌日には日本へ戻らなくてはならない。Mさんが帰国してからも毎晩のようにオーロラを求めて探しまわったが結局見れるのは遠くにうっすら緑になっているだけのオーロラで、頭上で爆発するようなオーロラを見る事はできなかった。この日、いつものように昼間は眠りこけて夕方から起きだすという行動をとっていた俺はいつものようにカップラーメンにお湯を注ぎ、麺をすすりながら辺りが暗くなるのを宿のリビングで待っていた。宿に宿泊している欧米さんはどういうわけか夜になると外へ出ていく。見た感じ軽装なのでオーロラを見に行くといった感じではないので飲みに行っているかクラブにでも行っているのだろう。そんな彼等を横目にいつものように小さなデイパックに三脚とカメラ、お湯を入れた水筒、ホッカイロにフリースを詰め込みいつもの丘へ向かう準備をする。

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時計の針は午後10時を回り、宿泊客で宿に残っているのは俺1人。管理人も自室で眠りこけているだろうこの時間に俺は今までとは違う何かを感じていた。予感があったのかもしれない。何か胸騒ぎがする。もしかしたら今日は見れるのではなかろうか?


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ipadで今日のオーロラのデータを見る。これは太陽からの太陽風と地場を示したグラフであり、100%信用することはできないが、基本的に赤色のグラフが上にあればあるほど強い太陽風が吹いているものとされ、黄色のグラフが振れていれば磁場が南寄りになっていることを示す。いつもは完全に横ばいだった赤色のグラフがこの日はグラフを突き抜けんとするばかりに上に振れており、磁場を示す黄色のグラフも相当に振れている。これはもしかしたら凄いのが出るかもしれない。俺は日本酒をグイと飲み干すと急いで丘へと向かった。

何度上ったか分からない丘へ到着し、北の方角を眺めると雲もなく遠くの山まで見渡すことができた。だがしかしオーロラは見えない。あの予報は約1時間後の予報なので当たれば今から30分後にはオーロラを見る事ができる。ならば30分間耐えようじゃないか。俺は雪原に三脚を刺し固定し、雲台にカメラを取り付けてレリーズを取り付ける。カメラのピントを無限大に合わせ数枚テスト撮影をすると、なんとそこには緑色に光るオーロラが遠くにだが色濃く写っていた。俺のテンションは一気に上がった。しかしここで何枚も撮影してしまうとカメラのバッテリーがもたない。これまでの経験上この寒さの中では連続で30分も取れれば良い方だ。きっと現れるオーロラを撮影する前にカメラが死んでしまっては悔やんでも悔やみきれない。そんな事を考えていた時、後方から雪を踏みしめて道を歩く音がした。見るとカメラの三脚を持ち歩いている。きっとオーロラの撮影をしに来たのだろう。

俺「は~い」

?「は~い。オーロラ見える?」

俺「うん、でもまだ全然薄いかな」

?「あれ?もしかして日本人ですか?」

俺「え?うん。あれ?日本人?」

?「はい」

彼女の名前はMちゃん。奇しくも先日まで俺と一緒にいたMさんと同じであった。

俺「どう?オーロラいいの見れた?」

M「先月は結構凄いの見れましたよー!」

俺「先月?」

M「あー私こっちに住んでるんですよ。ワーキングホリデーってやつ」

俺「こんなとこにワーホリ!?凄いね~」

M「いや~どうしてもオーロラが見たくて」

俺「なんか今日は結構凄いの出そうな感じなんだけど、どう思う?」

M「あ~私もグラフ見て来たんだけど今の所予兆はないね」

俺「だよねぇ」

Mちゃんと話をしながらオーロラを待つ事1時間。結局空にオーロラは現れなかった。

俺「あーあ。今日も結局駄目か~」

M「そうみたいですね。でも諦めないで頑張って!」

俺「うん。あ、帰り送って行こうか?」

M「うん、大丈夫!有難う!」

俺「いやさ、俺車だし」

M「え?あそこの車?レンタカー借りてるんですか?」

俺「そうそう」

M「じゃあお言葉に甘えようかな~」

俺「OK!行こう」

M「宿はどこなんですか?ビーズニーズ?」

俺「おお!さすが知ってるね!そうそう!」

M「私もたまに遊びに行くんですよ~。この前も行ったけどぷらさん居なかったなぁ」

俺「あー俺基本昼間寝てたからなぁ」

M「そっか、それでか~」

俺「ねぇ、もし時間あったら宿寄っていかない?全然眠くないからさぁ」

M「うーん、暇だし行こうかな」

俺「いいね!」

その後俺たちは宿へ戻り、缶ビールを飲みながらMちゃんが撮影した写真などを見せてもらい時間をつぶした。

M「凄い時なんか街中でも見えるんですよ~」

俺「そんな凄いんだ。あ~見たいなぁ。グラフは凄かったのになんで見えないかなぁ」

M「そりゃ運もあるし天気次第だからね~」

俺「あ~あ、グラフは今どうなって・・・!!!!

M「どう?」

俺「なんか凄い事になってるけど!?」

M「どれどれ・・・・・!!!!

俺「これどうなの??」

M「いや相当条件はいいと思うよ!」

俺「もう1回行っちゃう?」

M「行ってみようか!車ならすぐだし!」

俺「うん!」

俺達は再び車へ乗り込み、丘へ向かった。時刻は午前1時を回っている。急いで車から降り三脚を設置してカメラを北へ向ける。少しでもオーロラが写るようにISO感度を1600まで上げて30秒間シャッターを開く。

M「どう!?」

俺「!!!」

M「写った?」

俺「すげー!感度上げ過ぎてメッチャ緑になってる!」

M「お~!出たね~!」

俺「ねぇ、撮って!俺入れて写真撮って!」


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俺「お~!今までで1番すげー!」

M「良かったね~!」

俺「これさ、もしかしたらもっと凄くなるかな?」

M「予報は電波ないと見れないから今どうなってるか分からないけど・・」

俺「うおおおお!!!オーロラアアアアア!!!」

M「うん!キレイキレイ!」

俺「あれ?Mちゃん撮らないの?」

M「あ・・・うん。私この程度のなら結構見たから」

俺「この程度って・・やっぱ凄いのはもっと凄いのかぁ」

M「うん。もうね、パァアアアって!」

俺「うわー見たい~。ねぇ、この後どうかな?見れるかな?」

M「どうだろうね~。見れるといいけど」

俺「あ、そうだ。そういえばさ、ここの丘って後ろに街の光あるじゃん?」

M「うん」

俺「だから、もっと真っ暗な場所ってないのかな?」

M「ある事はあるよ~」

俺「遠い?」

M「30分位かな?でもね、丘の上じゃなくて湖の畔なの。本当に何もなくて真っ暗だから結構危ないよ」

俺「OK!移動で!Mちゃんナビしてね!」

M「えっえっ!?今から!?」

俺「ささ、乗って乗って!」

M「えっ!?私明日仕事・・・」

俺「出発ー!」


次回最終回へ。
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