世界中をぷらぷらしてきた

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ジャイプルよりデリーへ戻ってきて5日が過ぎた。これでデリーも4度目である。なにが悲しくてインド1カ国を旅してデリーに4度もこなければならないのか。勿論デリーはインド最大の都市であり、デリーを中心にして観光することも多い。しかし今回ばかりは無駄が多過ぎた。上へ右へ左へ下へ。グルリと回ればいいものを全て向かってはデリーへ戻りを繰り返した。この日、お決まりの宿で昼過ぎに起床した俺は駅へアーグラまでのチケットを確保しに向かった。

男「おい、どこに行くんだ?この上にある外国人窓口は午前中で終わりなんだ。どうだ?俺の知り合いの旅行代理店でチケットを手配しないか?安全かつ安く手配できるぞ!さぁ付いて来い!!」

俺「・・・・・」

何回この駅に来ても聞こえてくる決まり文句に「いやいいよ」の言葉も発しないで無視して階段を登る俺。そして当然のように賑わっている外国人専用窓口。紙に行き先を記入してソファーに座り自分の番まで待つと、10分程で俺の番になった。今日は空いている。ラッキーだ。

俺「アーグラまで混んでる?」

駅「いやそうでもないよ。どうする?日帰りにするかい?」

俺「日帰り?」

駅「タージマハルを見に行くんだろう?」

俺「そうだけど日帰りできるもんなの?」

駅「アーグラまでは2時間ちょっとだから、朝1番で行って帰りは最終にすれば戻れるさ」

俺「どうしよう。うーん、でも日帰りだと心配だから3日後にまたデリーに戻るチケットにするよ」

駅「そうか。分かった。じゃあ明日アーグラへ、4日後にデリーへのチケットだ。ほら」

俺「有り難う」

スンナリとチケットを購入でき再び宿へ戻る。帰りにまた土産物屋のおっさんに呼び止められるも華麗にスルーする。宿へ戻りベッドに寝そべり、携帯電話でこれまで撮影してきた写真を見返してみる。特に内容も何もないインドだったが早いものでもう2ヶ月近く滞在していることになる。この宿のドミトリーのベッドも定位置がしっかり決まってしまった。携帯の液晶に写る写真を眺めているとジャイサルメールの砂漠で野宿したのがつい先日のことのようだった。思い起こせばろくなことがなかった。特に感動もしなかった。だから最後にタージマハルを見て、せめて自分でインドに納得のいく思い出としてインドを後にしたかった。


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翌朝、皆が寝静まるドミトリーを抜け出し駅へ向かう。3日間の着替えなどをデイバックに詰め、バックパックは宿へ置いて俺はアーグラへ向かった。豪華な食事が出ると噂の列車も出てきたのは画像のおかしのみ。当然期待などしていなかったので隣に座った中年女性に食事をあげると喜んでバッグにしまっていた。列車は1度も停車することなく2時間弱でアーグラカント駅へ到着した。


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駅へ到着してもしばらくはホームで時間を潰す。客引きがうるさいからである。15分程ホームでチャイを飲み、乗客の姿が見えなくなったのを見計らい駅から外へ向かうも、何故か大量のインド人に囲まれてしまう。

男「おい!タージだろ!?乗れ!」

男2「俺の方が安くしてやるから俺のに乗れよ!」

男「おい!俺が先に見つけた客だぞ!」

男3「サイクルでも十分行ける距離だからサイクルでいかないか?もっと安く行けるぞ」

俺「あの・・・私まだ何も言ってませんが・・・」

男「・・・・。お前・・・?タージに行くんじゃないのか?」

俺「いや行くけどさ」

男「ほらみろ!じゃあ乗れよ!」

俺「違う違う。今日はいかないよ。明日でいいしさ」

男「じゃあ今日はどこに行くんだ?」

俺「まぁタージ付近の宿でも探して明日朝1番でタージに向かうことにするよ」

男「よし!宿もいい場所知ってるんだ!屋上からタージが一望できるんだぞ!いいだろ!?」

俺「マジで?それはいいね!夜のタージとか見ながら屋上で酒飲むのもいいなぁ」

男「よーしよし!屋上はレストランもやってるんだ!」

俺「はい決まり!じゃあお願いします」

男「まかせろ!」

なんと最後にふさわしい宿ではないか。月明かりに照らされたタージを見ながら優雅に酒を飲む。これ最高でしょう!俺はオートリキシャの座席で今晩の酒を考えながらアーグラの街並みを眺めていた。

男「なあジャパニーズ?お前名前なんて言うんだ?」

俺「俺?ぷらぷらだよ」

男「ぷらぷらか!いい名前だな。そこでお願いがあるんだがいいか?」

俺「・・・。なんだよ。聞くだけ聞いてやるよ」

男「お前今日1日俺をチャーターしないか?」

俺「しない。宿に向かって」

男「そう言うなよ。アーグラは見所沢山あるんだ。でも場所が離れてるしいちいちリキシャ探してたら大変だぞ?」

俺「だから今日は観光なんかしないって」

男「そうか・・・」

俺「あ!!ねぇ、お願い俺からもあるんだけど?」

男「なんだ?」

俺「30ルピーあげるから運転させてよ」

男「運転!?」

俺「うん」

男「30ルピーくれるのか!?」

俺「うん。あげるからさ。少しでいいよ」

男「じゃあそこのガソリンスタンドまでだぞ」

俺「OK~!」


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こうして俺はほんの100m程だが運転をさせてもらった。感想としてはポンコツバイクそのものだ。ガソリンスタンドついでに給油し、再び座席に戻り宿へ向かう。

男「着いたぞ。すまないがここから先は徒歩しか入れないんだ」

俺「ふーん。はい、お金。宿は行けば分かる?」

男「ああ、タージの入り口もこの先だからすぐ分かるさ」

俺「おっし!久々にまともなインド人に会ったぜ。あんがと!じゃあね~」

おっさんに別れを告げ、指示された方へ向かうと何軒もの宿がある。どれが目的の宿なのか検討もつかないが、屋上にレストランがある所というのを思い出した俺は客引きに「屋上にレストランある?」と質問することで無事目的の宿を見つけることができた。宿はタージの目の前ということもあり少し高い450ルピーであった。1泊日本円で約1000円だが、インドの最後を飾るにはふさわしいだろう。俺は少しリッチにシングルルームにチェックインすることにした。

俺「ねぇ、ガイドブックか何かない?」

宿「日本人用のガイドブックなら少し古いけどあるぞ」

俺「マジ?それ見せてもらえない?それに屋上にレストランあるんでしょ?」

宿「ああいいよ。レストラン?お腹が空いたのかい?」

俺「まだ何も食べてないからね。とりあえずスプライトとフライドライス作ってよ」

宿「分かったよ。じゃあ屋上で待っててくれ」

俺は部屋に鍵をし、タージを一望できるという屋上へ向かった。しかし・・・。


俺「・・・・。」

宿「はい、スプライトとフライドライスおまちどう」

俺「ねぇ。タージってあれ?」

宿「ああそうだよ」

俺「半分以上見えないじゃん」

宿「仕方がないさ。他にも建物はあるからね」

俺「一望できるって聞いてきたんだけど」

宿「一望?うちからは無理だよ」

俺「夜にここで酒飲みながら見ようと思ってたんですけど」

宿「夜?夜に屋上なんか上がったら野猿に全部荷物持ってかれちまうよ。ガハハハハ」

俺「ガハハじゃねぇよ。レストラン夜やってないの?」

宿「夜はやっとらんよ。この辺はサルが多いんだよ」


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俺「あの・・・3泊するつもりだったけど今晩だけでいいや」

宿「なんでだい!?」

俺「なんでもクソもあるかよ!屋上から見えないんじゃ意味ないじゃん!」

宿「屋上も何も夜は真っ暗で何も見えんよ」

俺「え!?」

宿「だから真っ暗で何も見えんよ」

俺「ライトアップとかしないの・・・?」

宿「せんよ・・・」

俺「・・・・・」

宿「・・・・・」

こうして俺は無駄な期待を裏切られ、この宿で3泊過ごすこととなった。
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ジャイプルへやってきて1週間が過ぎた。思い返してみると風の宮殿とシティパレス、アンベール城にジャイガル要塞しか行っていない。ここ数日は宿の屋上でスプライトを飲みながらボケーっと本を読むか、宿周辺の銀細工店に顔を出して欲しくもないブレスレットやネックレスを眺めて回った。ある日、いつものように宿の前にある食堂でフライドライスでも食べようかと外に出ると日本語で話す声が聞こえた。見ると大学生と思わしき若者が今まさに俺の泊まっている宿に泊まろうかどうかと悩んでいるではないか。俺は声をかけた。

俺「あのー、日本人ですよね?」

大1「はい。あ、ここ泊まってるんですか?」

俺「うん」

大1「どうですここ?いい感じですか?」

俺「いや、良くもないし悪くもないよ。そこまで安いわけじゃないしね」

大2「もうインドに入って長いんですか?」

俺「もうすぐ2ヶ月になるよ」

大2「ジャイプルって見所どっかあります?」

俺「うーん。一応ガイドブックに載ってるのしか知らないけど、俺はインド自体そこまで魅力を感じなかったから今は宿で引きこもりになってるよ」

大2「はぁ・・」

俺「今から飯食べに行くんだけど良かったら一緒にどう?」

大1「あ~すいません俺達今マック食べてきたんですよ」

俺「マック?」

そういえば誰だったかインドにはご当地マックがあると言っていたような記憶がある。そうだ!俺もそれを聞いて食べたくてコンノートプレイスまでわざわざ行ったんじゃないか!

俺「もしかしてマックマハラジャー?」

大1「そうそう!食べました?」

俺「いや、まだなんだよね。フライドライスにも飽きてたし、俺もマック食べに行ってこよーっと。有り難うね」

大1「はい、行ってらっしゃ~い」


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こうしてみると俺も随分インドに慣れてきた。道端に座り込む牛にも、道路に平気で転がっている糞にも驚かない。バラナシに比べればそれはもう別天地のジャイプルだが、これもまあ日本に比べれば別天地だ。俺は大学生2人と分かれ駅へ向かって歩き始めた。するとスグにリキシャのおっさんから声がかかる。これももう慣れたものだ。

俺「マクドナルド行きたいんだけど分かる?」

リ「勿論さ!」

俺「20ルピーでどう?」

リ「30はくれよ」

俺「じゃいいや。他のリキシャ探すよ」

リ「おいおいおい!待ってくれよ20でいいよ」

一日に幾度と無く繰り返されるこのやりとりもインドを旅する上ではお決まりの光景だ。座席に座り、ペダルを漕ぐインド人の背中を眺めると同時に街の景色を味わう。すると突然リキシャが停止した。

俺「え?もう着いたの?」

見ると他のリキシャの運転手と世間話してるじゃないか。まぁ別に急がないしいいだろう。

リ「おい、喜べ!分かったぞ」

俺「なにが?」

リ「何ってお前マクドナルドに行きたいんだろ?」

俺「うん」

リ「そのマクドナルドの場所が分かったって言ってるんだよ」

俺「お前知らなかったのかよwwww」

リ「さぁ、いくぞ!」

連れていってもらったマクドナルドはインドの街並みに似合わない、いつも俺が日本で見ているマクドナルドそのものだった。中に入りご当地マックであるマックマハラジャーを注文すると「OK」との返事。


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インドに入ってから肉という肉を食べていなかったのでマクドナルドと言えど肉が食べられるのは非常に嬉しい。箱を開け、いざご当地マックとのご対面。その見た目、味は是非ともインドでご確認くださいw腹も膨れ、堪忍袋も膨れた俺は再びリキシャで宿へ戻った。このままダラダラとジャイプルで過ごしても仕方が無いだろう。ここはもう腹をくくってデリーに戻ろう。それでタージマハルを見て日本へ戻るべきだ。無理に時間と金を浪費ひなくたっていいはずだ。だってまだ旅は続くのだから。


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(ジャイプルで飲める有名ラッシー。非常に美味しいので是非!)
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教えられた道程がデタラメだと気付いたのは30分後だった。既に歩く気力もないのでリキシャを捕まえ駅へ向かい、目に付いた宿でその日は夕飯も食べずに眠りについた。昨晩早く眠ったからか翌朝早く目が覚め、宿の屋上でコーラを飲みながらボーっと過ごしていると宿の従業員がやってきた。

俺「おはよー」

従「おはよう、早いな。どこか行くのかい?」

俺「いやそれがさ、ジャイプルは見所が沢山あるからと聞いて来たのに実際何も見るものなくない?」

従「おいおい!何を言うんだ!」

俺「だって昨日シティパレスも風の宮殿も行ったけど特別面白くなかったよ」

従「じゃ・・・じゃあアンベール城は行ったのか?」

俺「アンベール城?」

従「ちょっと遠いがジャイプルの街を一望できるいい場所だぞ」

俺「へぇ~!そんな場所あるんだ!なんか人工の建造物なんか見飽きてたし、そっちの方が断然興味あるかな!おし、今日はそこに行ってみようっと。どうやって行くの?リキシャでいける?」

従「オートなら行けるがサイクルだと遠いかな。バスなら安いからバスで行けばいいよ」

俺「ふむ。バスはどこから乗るの?」

従「風の宮殿の近くにターミナルがあるから、そこから乗ればいいさ」

俺「OK~!ありがとう!」

その後部屋に戻りルームサービスでバタートーストを食べ、俺は風の宮殿へ向かった。1度行っている事もあるし今日は予定もないので多少遠かったが歩いて向かうことにした。道中何度もリキシャのおっさんが寄ってきたが華麗なるスルースキルを発動し一切無視。1時間程歩くと無事に風の宮殿へ到着した。だが辺りを見渡してもバスターミナルがない。

俺「ちょっとそこのお土産屋さん?」

男「いらっしゃい!安いから見ていってよ!」

俺「いや残念ながら買い物じゃないんだ。この辺にバスターミナルない?」

男「ターミナルはないがバス乗り場はそこだよ」

俺「え?これ?」


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そこはターミナルには程遠い、ただのバス停であった。大型バスからワンボックスの乗り合いタクシーまで多くの車輌がその場所にやってきては走り去っていく。しばらく観察してみて分かったが、バスのチケットは無いらしい。料金はバスの中で支払うようだ。俺は地面に座って談笑しているおっさんグループにアンベール城まで行くバスはどれか訪ねてみることにした。

俺「お尋ねします。アンベール城まで行くバスはどれでしょう?」

お「お、おおおお?お前日本人だな?」

俺「はい日本人です。アンベール城まで行くバスはどれでしょう?」

お「おい!お前等来てみろ!こんなとこにジャパニがいるぞ!」

俺「あの・・・」

お2「おお、本当だ!お前こんなところで何しているんだ?」

俺「あのですね、私はアンベール城に行きたいんです。それでアンベール城に向かうバスはどれなのか教えて欲しいんですがどれでしょうか?」

お2「アンベール城?それより俺達の写真を撮ってくれないか?」

俺「・・・・・。もういいです」

お「待て待て待て!!アンベール城に行くバスはあれさ。あれに乗ればそのままアンベール城の目の前まで乗せてってくれるよ」

俺「ありがとう。じゃあね」

お2「待てよ!写真撮ってくれよ」

俺「なんでだよ・・・。まぁいいか。ほれ、ポーズとれ」


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よく分からないがおっさんの写真を撮影し、俺はバスへ乗り込んだ。


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バスは走りながら人を降ろし、また走っているバスに飛び乗ってくるインド人を乗せアンベール城へと向かった。峠を越え、坂を下り、やがて平地にさしかかると左手に見える山肌に建物が見えてきた。間違いない、あれがアンベール城なのだろう。隣に座っている男性に「アンベールフォート?」と確認すると「イエス」の言葉と共に何故か「写真撮ってくれ」との返事が返ってきたので俺は無視した。バスを降り入り口にいた兵士に声をかけるとアンベール城は坂道を登った先にあるらしい。ふと坂道を見上げると遥か彼方まで道は続いている。

俺「え?これ歩くの?」

兵「ああ。アンベール城はこの先だからな」

俺「マジで?すげぇ遠くない?」

兵「なーにすぐさ。なんなら象に乗っていくこともできるぞ」

横を見ると象が3頭ほど座っており、その横で笑顔のインド人が手招きをしている。真顔のインド人と笑顔のインド人ほど怪しいものはこの世に存在しないとここ1ヶ月半で悟った俺は意を決して坂道を登り始めた。


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歩いては休み、歩いては休みと1時間程経過したが一向に城らしきものが見えてこない。先をみるとまだ2~3kmはあるだろう。そしておかしな事に観光客が誰もいない。俺は思った。間違えているのではないかと。歩くのも疲れたし考えてみると城も人工の建造物だ。インド人が作ったものだしロクなもんじゃないだろうと宿に戻ろうかと思っていると、前方からバイクがやってきた。急いでそのバイクを止める。

男「なんだお前!危ないじゃないか」

俺「ねぇ、アンベール城ってここからまだ歩くの?」

男「アンベール城?アンベール城はあれだろ」

男の指差す方向はまさに俺が苦労して登ってきた坂道の入り口付近をさしている。

俺「え?あれ?」

男「ああ。この先はジャイガル要塞だぞ?」

俺「なにそれ?」

男「なにそれって・・・ジャイガル要塞だろ・・・」

俺「行ったほうがいいの?」

男「まぁ・・・なんだ・・・せっかくここまで歩いてきたようだしな・・・」

俺「はぁ・・有り難う」

どうやら俺はアンベール城の入り口を越え、その先にある要塞とやらへ向かっていたらしい。バイクの男曰く、見晴らしがいいのはジャイガル要塞からだそうだ。入り口からおよそ半分は上ってきてしまったので今更引き返すのも癪に障る。俺は久々に根性で上ることにしてみた。汗をたらし、既にTシャツはしめっている。南米から戻り完全に運動不足だった俺にとってこの坂道は辛いものがある。フラフラと歩いていると突然俺を呼ぶ大声がした。


「おい!!!」


思わず驚いて固まる俺。


「おい!ここだ!!」


どこだ!?誰だ!?声のする方向を見ると道の奥の茂みのような場所の壁にインド人のおっさんがいる。

俺「え!?何!?俺!?」

お「そうだ!お前だ!」

俺「何!?」

お「俺の写真を撮ってくれ!」

俺「は!?」

お「写真だよ!」

俺「え!?なに!?そこで何してるの?」

お「涼しいんだよ。ここは」

俺「は!?は!?」

お「ほら、ポーズ決めるから早く!」


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意味も分からず写真を撮るとおっさんは満足げに地面に座り込み「行っていいぞ」と俺に手を振った。何なんだアイツは・・・。


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その後やっとの思いで頂上へ辿り着き、要塞とやらを見学してみたが風景がそこそこ綺麗なだけで見所はなにもなし。世界一大きな大砲があると言われ見てみたが写真を撮るにも価しないものだった。俺は深くため息を吐き、宿へ帰った。
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突然言い渡された買い物の指令。意味が分からなかったがどうせ今日はもうやることもないし話のネタにもなるからと俺は引き受けることにした。話を聞くと市場は宿のすぐそばにあるらしい。買ってきて欲しいもののリストを紙に書いてくれたので俺は向かう事にした。


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なるほど、市場だ。

さっそく貰ってきた紙を見せて見る。紙にはヒンディー語で書いてあるので俺には読めない。メモを受け取ったオバさんは首を横にふり別な店を指差した。どうやらここにはないらしい。言われるがままに向かった先で再びメモを差し出すとどうやらあるらしい。

俺「これ。ある?」

女「・・・・・」

どうやら女性は英語ができないらしく無言で首を縦に振っている。女性は俺の前に大根と生姜、それと何かわからない野菜を並べた。

女「ペラペラペラ」

俺「へ?」

女「ペラペラ」

全く何を言っているか分からない。そうか会計か。

俺「はい。お金」

女「ペラペラ!」

女性は違うといった表情で俺に訴える。

俺「なんだよ・・・わからねぇよ」

すると女性は大根を1本手に取り俺を見る。続けて大根をもう1本別の手に取り俺を見る。そうか、量を尋ねてるのか!

俺「あ~!分かった!量ね!紙に書いてないのかな・・」

女「ペラペラ」

俺「もう分からねぇよ。じゃあ2本でいいよ。そっちもね。あとこれも」

女「ペラペラ」

俺「今度は会計か。はい」

宿の女将より預かったお金を差し出す。

女「・・・・」

俺「え?足りないの?」

女「ペラペラペラ」

俺「え?これで足りる?」

俺は自分で持っていて使い道がない500ルピーを差し出した。すると女性は笑顔になり、大根を10本程袋に詰め込みだした。

俺「おいおいおい!ちょっと待ってって!そんないらないよ!500ルピー分じゃなくて、お釣り欲しいの!わかる?」

女「???」

俺「アイウォントこれとこれ!OK?」

女「ペラペラ」

俺「お釣りないの!?じゃあこれでいい?」

俺は手持ちにあった細かいお札を差し出した。すると女性は80ルピーほど抜き取り、野菜を俺に渡した。随分安いんだなぁ・・・・。

買い物を終え宿に戻って女将に野菜を手渡す。

女将(以下オ)「ちょっと何よこれ?」

俺「何って野菜じゃん」

オ「こんなにいらないわよ」

俺「え?そうなの?まぁ今度また使ってよ。これ80ルピー足りなかったから80ルピーちょうだい」

オ「あなたが勝手に買ってきたんでしょ!これとこれ、これも使わないから自分で使いなさい」

俺「大根なんか持って旅できるかこの野郎!」

オ「そんなの知らないわよ」

結局この日宿主と喧嘩した俺は夕飯を食べもせずに部屋で眠りについた。そして翌朝早々に荷物をまとめ宿をでることにした。こんな誰も宿泊していない宿に泊まっても情報は得られないし何の得もない。チェックアウトして宿を出た俺は早速「風の宮殿」へ向かう事にした。今日の予定は風の宮殿を見て駅近くの安宿へチェックインするのである。

俺「へいおっさん!」

お「お、どこまで行くんだい?」

俺「風の宮殿って分かる?」

お「ああ、20ルピーで乗せてやろう」

俺「じゃ頼むよ」

リキシャに乗り風の宮殿を目指す。昨日通ったシティパレスの横を通りリキシャは走り出した。

俺「いやぁ、インドも寒いんだね」

お「ああ、もう冬だからな」

俺「朝晩は本当に冷え込むよね~」

お「着いたぞ」

俺「はやっ!!」

ものの5分でリキシャは風の宮殿に到着、見るとそこにはガイドブックで見たものと同じ建物が聳え立っていた。

俺「これか~。おっさん有り難うね。はい20ルピー」

お「有り難うな。お前中に入るのか?」

俺「うん、一応ね」

お「でもまだ朝早いからやってないぞ」

俺「マジ?」

お「ああ。それに風の宮殿ってのは外から見るもんだ。中から見ても何も面白くないぞ」

俺「なんかお前等シティパレスといい風の宮殿といい中に入るのを止めるよなぁ」

お「だって本当の事だからな。俺は親切心で言ってるんだ」

俺「まぁ、そもそも建造物とかに俺あんまり興味ないしなぁ。じゃあ写真撮るだけでいいか」


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俺「よし!おっさんこのままついでに駅の方に行きたいんだけどさ」

お「ああ、いいよ」

俺「いくら?昨日のリキシャは40だったんだけど40でいい?」

お「40は安いなぁ。相場では倍の80は貰わないと・・・」

俺「80は高くねぇ?」

お「そうだ、じゃあこうしないか?今からファクトリーに連れて行くから見学してきてくれ。お前がファクトリーを見学すると俺に金が入るんだ。それなら40は厳しいが50で行ってやるよ」

俺「うーん。なんか面倒臭そうだなぁ」

お「そんな事ないぞ。ジャイプルのファクトリーでお前も勉強できてハッピー、俺もお金が貰えてハッピー、そしてお前は駅まで50で乗れて2回ハッピーじゃないか」

俺「ん~。あれ、でもまだこんな時間だけどファクトリーはやってるの?」

お「ああ、ファクトリーの朝は早いんだよ。よし、じゃあ乗れ」


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まだ朝9時ということもあって宿に行っても暇だし俺は工場見学とやらに行く事にしてみた。15分程してリキシャが到着したのはファクトリーと言うにはやや大袈裟な建物だった。

俺「ここ?」

お「ああ」

工場長「やあやあ、君かい?宝石が欲しいって言うジャパニーズは?」

俺「おいおい話が変に伝わってんじゃねぇか」

お「とりあえず見学だけさせてやってよ」

工「よーしジャパニこっちだ!そしてここからはカメラ禁止だからな」

俺「あいよ」

工場長に連れられ中に入ると従業員はおろか人が1人もいない。

俺「今日休みなの?」

工「いやまだこの時間だろ?始まってないのさ」

俺「じゃあ何を見学しろってんだよ・・・」

工「俺が丁寧に説明してやるからまぁ聞けよ」

こうして工場長直々の宝石加工に使う工具や工程の説明を受けた。全く興味がない俺は半分以上携帯電話をいじっていたが、30分ほどしてその説明も終わった頃、奥からもう1人別な人物が出てきた。工場長が頭を下げて挨拶をしているところを見ると社長さんと言ったところか。

社「君かい?ダイヤモンドが欲しいジャパニは」

俺「いやいや俺じゃないし」

社「工場長の説明はよく分かったかい?」

俺「はぁ・・・」

社「しかし君は運がいい。今良質の石が手に入ったんだが見ていかないかい?ガールフレンドや母親なんかにプレゼントしたらどうだ?」

俺「俺の前で二度とガールフレンドという言葉を口にするな。そもそも俺は金なんかねぇよ」

社「まぁ見るだけいいじゃないか」

オーナーは俺を工場の外にある別な建物の中へと案内した。6畳位の板張りの床に小汚い椅子が数個並んでいる。どこをどう見ても高価な宝石を取引する場所には思えない。

社「ジャパニ?お前金がないんだったよな?」

俺「うん。だから宝石なんか買えないよ」

社「そこでだ、ちょっと儲け話があるんだがのらないか?」

俺「儲け話?」

社「ああ、実は俺日本でも宝石の仕事をしようと思ってるんだ。だが日本は物価が高い。インドから石を日本へ送ったらいくら金を取られるかわからない。そこでだ、お前帰国する時に石を持って帰ってくれないか?ダイヤからルビーまで色々あるんだ。石自体そんな重くないし大きくもないから邪魔にはならないだろ?」

俺「んなの面倒くせーよ」

社「まぁ聞けよ。それでな、日本にいる俺の知人の連絡先を教えるから、そいつに石を渡して貰えればいいんだよ」

俺「ふーん」

社「約1000万円分の石をお前に預けるから、お前がその知人に渡してくれれば1/20の50万円を運び代金としてお前にやろう。これが儲け話さ。お前はただ石を日本に持ち帰るだけでいいんだ。まだ加工もしていない石だから商品として見られないから大丈夫さ」

俺「50万もくれるの!?」

社「どうだ?乗り気になったか?でもな、俺も1000万円分の石を今日会ったばかりのお前に渡すのは怖いんだ」

俺「そりゃそうだよね」

社「そこで保険をかけたいんだが、お前まず今俺に50万円預けてくれないか?その50万円と引き換えに石を渡すから、お前は運んでくれればいい。日本に戻って石を渡してくれれば知人に今預かった50も含めて100万お前に返そう。これでチャラだろ?」

俺「いやいや、まず俺50万なんか持ってないよ。」

社「だってお前クレジットカード位持ってるだろ?」

俺「まぁ・・」

社「じゃあこうしよう。お前うちの店で50万円分の宝石買ってくれ。それで同じこととしようじゃないか」

俺「それも嫌だなぁ。てか本物の石なわけ?」

社「ちょっと来い」


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オーナーは更に奥の部屋に入り鍵を閉めた。部屋は更に狭くショーケースが並んでおり、その中にキラキラと輝くピアスや指輪が並んでいた。

俺「おおお~」

社「どうだ?キレイだろ?」

俺「うん。でもやっぱいいや」

社「なんでだ!?」

俺「だって面倒臭いんだもん」

社「50万貰えるんだぞお前?」

俺「いーよ」

社「じゃあ100万出す!これならいいだろ?」

俺「いいって。他に別な人探しなよ」

社「信じられないな。お前は今チャンスを捨てたんだぞ?」

俺「そうかもしれないけどさ。じゃ、有り難うね」

詐欺に決まっている。なかなか面白かったので途中まで付き合ってやったが、ここまで典型的なものだと疲れてしまう。店を出てリキシャのおっさんを探すがおっさんの姿は見当たらない。さてはあいつ、駄賃貰って居なくなりやがったな・・・。でもここまでの金払ってないしいいか。

俺「おーい、そこのおじさん」

お「なんじゃ?」

俺「駅どっち?」

お「あっちじゃよ」

俺「ありがと~!」

俺はおっさんに教えられた方向に向かって歩いたが、何故か駅は逆方向だった。
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