世界中をぷらぷらしてきた

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今までダニやら南京虫やら砂埃にまみれながら寝泊りを続けていたので現代的な・・・そして無機質なカイロ国際空港に俺はとてつもない違和感を覚えた。タイへ飛ぶ飛行機の搭乗受付を済ませ、空港内をふらふら歩くと少しずつ思い出してくる。そう言えば今から3か月前、この空港で長時間意味も分からず待たされて不安な思いをしたっけ。タイからトルコへと飛んだ時、インドのビザを破棄したにも関わらず俺には迷いは無かった。しかしトルコからシリアに入る辺りから後悔しはじめ、イスラエルでパスポートを紛失した時には完全に後悔したものだ。本当に長いようで短かった。道中何度も日本に早く帰りたいと願った。日本に戻って味噌汁が飲みたい。日本に戻ってアサヒスーパードライが飲みたい。家族に会いたい。彼女に会いたい。そう何度も・・・何度も思った・・・。

それが今こうして帰国する為に空港にいるともっと旅を続けたいと思ってしまう。俺は・・・このままでいいのか。やり残した事はないのか・・・。ラウンジでコーヒーを飲む金なんぞないのでベンチに座り勘違いしたフライトまでの待ち時間3時間を潰していると、隣の欧米人がビールを買ってきて飲みだした。羨ましげにそれを眺めていると欧米人が俺にビールを差し出す。飲めと言うのか!?いや、俺も侍のはしくれだ。他人のお恵みなど・・・有り難く頂戴しましょー!!!


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欧米人に貰った缶ビールを一口飲む。エジプトのビール、ステラだ。そして激安煙草に火を付ける。目を瞑るとこれまでの思い出が浮かんでくる。あと少しで・・・あと少しで日本に戻るんだ。Iさんと別れた事は正直寂しい。でも日本に戻れば家族や彼女に会える。複雑な気持ちだった。

だがビールを飲み終える頃、よくよく考えてみると彼女なんかいなかった。


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飛行機は定刻通りに出発した。これから長い長いフライトだ。だが問題ない。来る時とは違い今の俺にはデジカメの中に入っている数多くの写真という思い出が眠っている。これを1枚ずつ見ていこう。機内で酒を飲みながら写真を見ていればアッという間にタイにつくはずだ。

俺「あの、ビアプリーズ」

スッチー「5ダラー」

俺「え?」

スッチー「5ダラー」

俺「え?!ちょ・・・俺今5ドルもないよ・・・」

ブシュッ

俺「おいおいおいおい!勝手に開けるなよ。ソーリー、ノーマネー!ノーマネーソーリー!」

スッチー「はぁ?!」

大変に申し訳ないが今俺の財布の中には2ドルしかない。困っていると隣の欧米人が金を支払ってくれた。

俺「え!?いいの!?」

欧米人「いいよ。飲みな」

俺「ありがとおおおおおおお!」

人の奢りは何よりも美味い。俺は本日2度目のおめぐみを貰い、フライトを楽しんだ。

そして飛行機はいつの間にかタイへ到着した。空港から外に出ると真っ暗だ。何時なんだ一体。いつものようにタクシーでカオサンを目指す。悲しいことに日程がメチャクチャなので今から23時間後に日本へ戻る飛行機が出る。いちいちカオサンへ行く事は面倒だが、空港で23時間潰す事は出来ない。俺はATMで5000円分キャッシングし、カオサンへ向かった。

見慣れたカオサン、もう慣れたものだ。俺は東南アジアを旅した時にお世話になった宿へ泊まる事にした。宿に向かう途中、コンビニでビールを買い込み宿へチェックインする。見慣れた宿の店員が俺を出迎える。

「Do you remember me!?(俺の事覚えてる?)」

と聞いてみたが返ってきた答えは「no」だった。


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宿の食堂でコップを借りて酒を飲む。時差と疲れからかすぐに眠くなってしまう。辺りを見渡しても他に旅人の姿は見えない。それもそうだ。今はオフシーズン。旅人が少ない時期なのだ。コンビニで買ったビールを飲み終え、足りないので宿のビールを飲んでいると俺に声がかかった。

???「ぷらぷら?」

俺「え??」

誰だ俺を名前で呼ぶやつは?

振り向いた先に居た人物、それは俺を麻雀でボコボコにしたこの宿の従業員だった。

俺「うおおおおお!思い出した!!」

従業員「へい!元気だったか!?どこに行ってたんだ!?」

俺「中東だよ!ミドルイースト!」

従業員「そうか、これからしばらくここの宿に泊まるのか?」

俺「いや、残念だけど明日出るんだよ」

従業員「そうか・・・じゃあ麻雀出来ないな」

俺「いや、できるっしょ。今スグはメンツもないし、俺も眠いから出来ないけど、明日の夜中3時にフライトの飛行機で俺帰るから明日その時間までやろうよ。大丈夫?」

従業員「俺は逃げないからいつでもいいんだよ~?」

俺「絶対リベンジするからな。あとメンツだけど日本人な!タイ人は駄目だからな」

従業員「別にいいよ」

俺「よーし!じゃあ明日夜8時にここにまた集合な!」

従業員「OK、楽しみにしてるよ」



最後の決戦まで残り14時間。
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今更だが、Iさんはできた人間であると明記しておこう。ピラミッドでのひと悶着あった後にもう1つの見どころスフィンクスを見に行った時の話だ。

I「ぷら君さ、許すから俺のお願いも1つだけでいいから聞いてもらえないかな?」

俺「なんなりと!!なんなりとお申し付けください!」

I「いや、笑わないでよ?」

俺「ガハハハww笑いませんとも!なんですか!?」

I「・・・・。そこにスフィンクスあるじゃん?」

俺「はい!おりますね!鎮座しております」

I「あれと、キスしたいんだよ」

俺「・・・・・・・へ?」

I「だから!遠近法使ってキスしているように写真を撮って欲しいんだよ」

俺「俺が・・・やるんですか?」

I「俺がやりたいの!!」

俺「ぶははははははははww30過ぎたおっさんが何言ってるんですか!」

I「笑うなって言っただろ!いいじゃん!その位!それにまだ30じゃないよ!」

俺「いいですよ!お安い御用です!ささ、じゃあ早く目を瞑って唇突き出してください」

I「待ってよ、周りに観光客いっぱいいるから恥ずかしいよ」

俺「恥ずかしがる歳じゃありませんって」

I「ぷら君も俺と変わらないんだよ!?」

俺「いいですから、早くやってください」

I「じゃ、いくよ・・・・。ムチュ~」

俺「ぶはははははははw」

I「俺ホント怒るよ!早く撮ってよ」


そして俺は三十路間近のおっさんのキス顔を角度を変えながら数枚撮影した。通り過ぎる観光客は俺等のその姿を見て笑っている。中には指を指して笑っている者までいる。おぞましい写真を数枚撮影し、デジカメの液晶越しに撮影の出来を見てみると意外なほど素敵な写真が撮れていた。俺は自分もやりたくなった。Iさんにお願いし、俺も目を瞑り唇をありったけの力を振り絞り突き出す。


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その後なんの未練も無くなった俺達はギザを後にした。宿に戻り少し休むと、夕方ナイル川の畔へと出掛けた。


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陽が落ちてもまだ暑い。路上で売っているアイスを購入し川辺へ腰を下ろす。そして長かった1日を振り返る。本当に長かった。そして遂にピラミッドも見てしまった。タイへ戻る飛行機のフライトの日までまだ2週間はある。何もすることなく、残りは静かに過ごそう。

俺「Iさん、Iさんはこれからどうするんですか?」

I「ピラミッド見ちゃったもんね」

俺「はい」

I「俺はさ、カイロからそのまま日本に戻ろうって考えてるんだ」

俺「え!?じゃあスグにでも!?」

I「まぁスグにでもいいんだけどさ、ぷら君まだカイロにいるんでしょ?」

俺「はい、あと2週間はいることになりますね」

I「じゃあ、俺もいるよ。ぷら君を見送った翌日日本に戻るよ」

俺「Iさああああああああああああああああああああん!!」

I「色々あったけどさ、試練はちゃんと乗り越えないとさ」

俺「俺といるのがそんなに試練ですか!?」

I「今頃気付いた?」


それからのカイロでの日々はIさんと共にIさんの持っていたガイドブックの観光名所を淡々と回るものであった。


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香水屋へ向かった帰り道、バスを待つ間に何故か床屋のオヤジと意気投合し言葉の違いから2度目の丸刈りとなり。


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南京虫に刺された跡が悪化し、再び病院と薬局通いをし。


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映画館に行ったらアラビア語で全く理解出来なかった。

そしてタイへ戻る前日、最後の最後に取っておいたカイロ動物園へと俺とIさんは向かう事になった。ガイドブック通りに電車に乗り、乗合バスで動物園駅へ行くはずだった。


俺「Iさん!バスきましたバス!!おーい!!」

運転手「なんだお前等、よそへ行け」

俺「はああああ!?何で俺等は乗せてくれないんだよ!」

運転手「なんでもかんでも・・・なんで乗るんだよ?」

俺「バスだからに決まってるだろ!俺等は動物園に行くんだよ!ズー!ズーパーク!!」

運転手「ああ・・・もう勝手にしろ・・・」


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後に気付いた事だが、俺等の乗ったバスは女子大の送迎バスであった。無理を言って動物園前で降ろしてもらい、いざ動物園へ。動物園に入って俺達は言葉を失った。ラクダしかいないのだ。


I「なんでラクダしかいないの・・・」

俺「知りません・・・」

I「ラクダなんかその辺にいっぱいいるじゃん・・・」

俺「はい・・」

I「なんで檻に入れるの・・・?」

俺「知りません」

I「これが最後のエジプト観光ってぷら君・・・・」

俺「察してください・・・」


動物園を後にして宿へ戻る。もうこの宿も長い。部屋に戻り荷物をまとめる。不思議な感じだ。しばらくの間荷物の整理をしていなかったので荷物がベッドの付近に溢れている。この旅で荷物を整理するのもこれが最後だろう。少し寂しい。

俺「Iさん、明日でお別れですね・・・・」

I「ぷら君、色々あったけど有難うね。楽しかったよ」

俺「なんか凄く寂しいです・・・」

I「日本でも会おうよ!」

俺「絶対会いましょうね!」

I「うん!ぷら君はこの後まだ旅は続けるの?」

俺「え・・・」

俺は次の旅など考えた事はなかった。この中東の旅でさえいっぱいいっぱだたのに、更に新天地求めて旅立つなど考えられようもなかった。

俺「まだ・・考えてませんでした。Iさんは行くんですか?」

I「俺は多分行かないけど、ウユニって知ってる?」

俺「なんですかそれ?」

I「南米のボリビアにウユニって場所があるんだけどさ、そこは行ってみたいなぁ」

俺「いいとこなんですか?」

I「もうこの世のものとは思えない世界みたいだよ」

俺「へぇ~」


このIさんの一言で俺は南米へ旅立つ事になる。


翌日、宿の前でタクシーを停め空港へ行き先を告げる。見送ってくれるのはIさん1人だ。トランクに荷物を放りこみ、後部座席へ乗り込みIさんを見上げる。これでお別れかと思うと涙が出てくる。ドアを閉め、窓を開けてIさんと握手をする。

I「なに泣いてんの?」

俺「泣いてませんよ・・・」

I「ぷら君、本当に本当に有難うね」

俺「Iさん、俺こそ・・・」

運転手「おい、行くぞ?」

I「はい!お願いします!」

俺「え!?ちょっ・・・・」



ブオオオオオ~ン



なんだ!?何が起きた!?感動的な別れのシーンで何故車が走り出してる?!俺は後ろを振り返った。Iさんはこれまでに見せた事のない位満面の笑みで手を振っていた。さよならIさん、有難うIさん・・・。
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うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


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無駄に大声を出して俺はピラミッドへと突進した。しかしその大声のせいで警備員がこちらを睨む。警備員の目に映るはピラミッドに向かって突進するアジア人。しかし警備員と俺達の距離は50mは離れている。駆け寄ってきた所でまだ捕まらないだろう。俺は後ろを振り返ることなくチェーンをくぐり、石段の目の前まで辿り着いた。ピラミッドの目の前にきて俺は驚いた。1つ1つの石が巨大なのだ。遠く離れた場所から眺める限り、せいぜい大きくても30cm程だと思っていたのだが、その大きさは1mかそれ以上だ。ゆうに腰の部分まである。これは階段を駆け上がるようには登れない。それにピラミッドの周りには上部から風化して落下したであろう石がゴロゴロとしている。もし登っている最中に落石があり、俺に直撃したら一瞬でオシャカだろう。しかし破ったIさんの相方のこともある。俺はよじ登り始めた。


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キレイに切られていると思っていたその石は、角が丸みをおびており手をかけるとポロポロと崩れそうだった。非常に登り辛い。サンダル履きだったのが災いしたようだ。上を見上げると反り立つようにピラミッドが立ちはだかる。とても頂上までは登れない。登ったら確実に死ぬ。俺の心の中に暗雲が立ち込めた頃、後方で既にトラブルに巻き込まれている人物がいた。Iさんである。

I「ぷら君!ぷら君!ぷら君!!!!ちょっと!!!はや・・・・はやく!!!」

後ろを振り返り目を細めるとIさんが警備員に捕まっている。

I「早く!!!ちょっと俺怒るよ!!待ってよ!!俺何もしてな・・・ああああっ!!!

俺は静かに視線をピラミッドに戻し、再び黙々と登りだした。

I「ぷら君!!おいこらプラッ!!!!!聞こえてんだ・・・あああああああああ・・・・」

今登るのをやめたら確実にお縄だ。申し訳ないがIさんにはここは犠牲になっていただこう。そして後から存分にお礼をすれば許してくれるはずだ。


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残念な事にIさんが撮影できたのはこの写真までである。俺は1/3登ったところで再び下を振り返った。相変わらずIさんが警備員に取り押さえられている。そして警備員もIさんも俺を見つめている。何より恐ろしかったのがその高さである。登るにつれ、足場の幅がせまくなってきており、1/3ほど登ると自分の足1つ乗せるだけでギリギリである。間違って足を踏み外せば間違いなく下まで転げ落ちるだろう。俺は諦め、ソロソロとピラミッドを降り始めた。登る時は10分もあれば1/3まで登れるのに降りる時には実に倍近い時間がかかった。残り2~3段まで降りた時、叫びながら警備員が俺に近寄ってきた。問答無用で取り押さえられてIさんの横までしょっぴかれた。

I「なんですぐ降りてこなかったの・・・」

俺「やっぱ・・・駄目なんですね・・・」

I「どうするのこの人達・・・・銃まで持ってる本物の軍人さんじゃん・・」

俺「大丈夫ですよ、ほら、秘密兵器があるじゃないですか」

警備員「お前等、何やってるか分かっているのか?」

俺「ソーリー、これ少しばかりですけど・・」

警備員「ああああん!?なんだこりゃ!?お前ナメてんのか!?」

俺「Iさん、話が違うじゃないですか!?」

I「こっちのセリフだよ!!」

警備員「お前、これなんのつもりだ?」

俺「え・・・あ・・・その・・・プレゼント・・・フォーユーです」

警備員「ちょっとこっちに来い」

俺達はピラミッド脇にある警備員の宿所へと連行され、小一時間ほど説教をされることとなった。いつもは俺が分からない事を通訳してくれるIさんも、この時ばかりは俺へ一切通訳してくれなかった。


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(ギザの3連ピラミッド)
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ゲートで入場料を支払い敷地内へ突入すると、いささかイメージと違った世界が目の前に広がっていた。俺のイメージしていたピラミッドというものは吹けば飛ぶようなサラサラの砂の世界で、どこまで見渡しても地平線という中にポツリとあるイメージだった。エジプトの首都カイロ近郊にあることで、そこまで期待はしていなかったが今目の前にあるピラミッドを見て俺は少しガッカリした。そびえ立つ巨大なピラミッドの周りには人工的な建造物がひしめいており、ピラミッドを囲むようにアスファルトで舗装がしてある。

俺「Iさん・・・これ・・・」

I「まぁ時代の流れなんじゃない?」

俺「でも・・・俺・・俺・・・砂漠の真ん中にあるイメージだったんですよ」

I「いくらなんでも砂漠の真ん中にビルは建たないよ」

俺「それもそうですね・・・」

I「でもさ、ぷら君の言う通り俺もここまでとは思わなかったなぁ。なんかイメージ崩れるね」

俺「はい。右を見れば観光バス、左を見ればツアー客、なんか違いますよ」

I「でもさ、この巨大さはすさまじいね」

俺「それは言えますね。これ・・・本当にどうやって作ったんでしょうね・・・・」


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俺「Iさん・・・俺・・・なんか泣きそうです」

不思議と感動した。無機質なビルの中にあるピラミッド、ただ石を重ねただけのピラミッド。そのピラミッドを見て思い返すと鼻の奥がツンと痛くなった。自業自得ではあるがこれまで長い道のりだった。思いかえすと何かをやると決めて成し遂げたのはこれが初めてなんじゃないだろうか。27年間生きてきて、これほどまでに充実した気分を味わったのは初めてだった。焼けるような日差しの中、ベンチにIさんと座り少し談笑した。

俺「来ちゃいましたね・・・」

I「ね、来ちゃったね」

俺「Iさん、俺初めて言うかもしれませんけどIさんに出会ってなければここまで来れなかったと思います。本当に有難うございます」

I「突然どうしたの?気持ち悪いなぁ」

俺「俺も・・・自分で変だと思います・・・」

I「そこは思わないでよ・・・」

俺「Iさん、ダハブで話した事覚えていますか?」

I「これまでの旅の話のこととか日本でのこと?」

俺「はい。それと、昨日話した事も覚えていますか?」

I「勿論だよ」

俺「俺・・・馬鹿だからうまくいえないし、これしか言えませんけど、本当に有難うございます」

I「やだなぁ・・・なんかしんみりしちゃうじゃん」

俺「Iさん、ラクダ乗りましょう!!」

I「なんか凄く話飛んだね・・・」

俺「俺、ピラミッド見るのも目標だったんけどけどピラミッド見ながらラクダに乗るのも夢だったんです」

I「なんかピラミッドの周りにいるラクダ商売の奴には気をつけろってガイドブックに書いてあったよ」

俺「大丈夫です!俺等はそんじょそこらのツアー客じゃないんですよ!中東を南下して陸路でエジプトまで来た言わば猛者なんです!」

I「まぁ、猛者とまでは言わないにしろツアー客ではないよね」

俺「はい!だからそんなラクダ商売の奴なんぞにボラれるわけありません!」

I「そこまで言うなら俺も記念になるし、乗ろうかな」

俺「交渉は俺にお任せ下さい!」

I「待った!それは駄目だ。交渉は一緒にしようよ」

俺「Iさん!俺を信用できないんですか!?」

I「出来るわけないじゃん!今までどれだけ散々な目に遭った事か・・・」

俺「そう言われると自覚がないわけでもありません」

I「じゃ、一緒に行こうね」

こうして俺はIさんと一緒にクフ王のピラミッドの周辺を乗せてあるってくれるラクダ商のおっさんに直談判しに向かった。

俺「おーい、ラクダ乗りたいんだけどいくら?」

ラクダおやじ「30ドルでどうだ?」

I「おいおい、30ドルはないでしょ?ガイドブックには10ドルが相場だって書いてあるの知ってるんだよ」

ラクダおやじ「おい、その本はいつの本なんだよ。ここ最近ピラミッドへの観光客が多くて相場は変わってるんだ。30で乗りたくないなら他のラクダ商売やってる奴のとこに行きな」

俺「あれ・・・なんか話が違いますね」

I「なんか強気だよね?」

ラクダおやじ「乗るのか?乗らないのか?」

俺「30じゃ乗らない」

ラクダおやじ「じゃあ幾らならいいんだ?」

俺「3ドルなら乗るよ」

ラクダおやじ「3ドル!?話にならないな」

俺「だって客俺等以外にいないじゃん」

ラクダおやじ「そ・・・それは・・・後からくるんだよ」

俺「じゃあいいや。別の探す」

ラクダおやじ「おいおい!ちょっと待て!10ドルで特別に乗せてやるよ」

俺「Iさん、突然1/3に値段が下がりましたよね?これはチャンスですよ」

I「チャンスとかもうどうでもいいよ・・やっぱ乗らないで帰ろうよ」

俺「何を言うんです!エジプトに来てラクダに乗らないなんて日本に来て寿司食わないのと同じ位邪道ですよ!」

I「そこまで言うなら・・・」

ラクダおやじ「よし!10ドルだな?10ドルでいいな?」

俺「だまらっしゃい!誰が10ドルって言った!3ドルだ!3ドル以外ビタ一文払わないからな」

ラクダおやじ「おいおい・・・じゃあ5ドルでどうだ?」

俺「どうします?」

I「5ならいいんじゃない」

俺「よし、5なら乗ろう。その変わり前払いだ。その後請求しても絶対に払わないからな」

ラクダおやじ「ああ、勿論さ。じゃあ乗って。そっちの君は別なラクダに乗ってくれ」


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ラクダに乗った俺はおやじに申し出た。

俺「あのさ、人気がない絶好の場所ってないの?」

ラクダおやじ「ああ、あるよ」

俺「そこに連れてってよ」


ポクポクとラクダに揺られながら歩くとピラミッドの真裏へと連れていかれた。ラクダから降り辺りを見渡すと人気は無い。

俺「Iさん、誰もいませんよ!写真撮りましょう」


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俺「おっさん、もうここでいいや。あとは歩いて帰るからさ」

ラクダおやじ「そうか。分かった。じゃあな」

俺「Iさん、マジで誰もいませんね!!」

I「うん・・・・」

俺「なんでそんな棒立ちなんですか・・・」

I「なんか嫌な予感しかしなくてさ・・・」

俺「なんですかその嫌な予感って・・」

I「いや、気のせいならいいんだけど・・・」

俺「でもまぁ、もう一つ思い出作りましょうか?」

I「・・・・・」

俺「ちょっと登ってみませんか?」

I「やだよ」

俺「ちょっとだけ・・・・」

I「無理だよ。チェーン張ってあるじゃん。しかも観光客はいないけど警備の人いるよ」

俺「でも俺秘密兵器持ってるんです」

I「なに?まさか!?」

俺「これです」

I「おおおおおおおおおおいいいいいいいいいいい!!!!」

俺「Iさん、出会いがあれば別れはあるものです。俺が日本に帰ったらいくらでも送ってあげますよ」

I「駄目だよマジで。その前に絶対捕まるよ」

俺「人気もないし、これなら大丈夫ですよ。それにほら、見つからなければ没収もされないじゃないですか」

I「本気でやるの?」

俺「Iさんはやらないんですか?」

I「俺はいいよ・・・」

俺「え~。じゃあ、Iさん写真撮ってくださいよ」

I「ぷら君の?」

俺「はい」

I「でも見つかったら俺知らないフリするよ?」

俺「はい」

I「そこまで言うなら・・・いいよ。写真くらい」

俺「じゃあ・・・・」



ビリッ



I「あああああああああああああああああああああ!!!!」

俺「これ、万が一の為にIさん用です」

I「なんで破ってんの!?!?」

俺「だってIさんにもないと・・」

I「俺は別にいいんだよ!って・・・・あああっ!!もうっ・・・・最悪だ」

俺「じゃ、これカメラです。お願いします」

I「ちょっと待ってよ。グラビアとかヌード載ってるカラーページは全部ぷら君持ってんじゃん!!」

俺「気・・・気のせいですよ・・・」

I「気のせいじゃないよ!俺に渡したの全部白黒じゃん!しかも活字ばっかだよ」

俺「さ、いきますよ」

I「あ~もうどうにでもなれ。むしろ捕まれ」

俺「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


ピラミッドクライミング、スタート。
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俺「そんでそんで?どうやって登るの?」

A「これはサファリって宿に書いてあった情報ノートのものなんだけど、それでもいい?」

俺「とりあえず聞いてみるよ」

A「まず人数は5人位必要で、その中で登れるのは運良くて1人かな」

俺「へ?」

A「まずね、5人全員がエロ本を装備するのね。で、ピラミッド目がけてバラバラに特攻するのさ」

俺「はぁ」

A「ピラミッドの周りには警備員が必ずいて、その警備員に数人必ず捕まるから。捕まっても警備員にエロ本渡せばそれで解放されるよ。登るって言っても頂上まで登るわけじゃないからね。登ったら死ぬよ」

俺「うんうん」

A「で、その中で運よく捕まらない奴が登るのさ。登って降りてきたらエロ本渡して帰るだけ」

俺「何それ?そんなの可能なの?」

A「みたいだよ」

俺「え~、明日ピラミッド登りたい人居ない?」


シ~ン


A「あはは、誰もいないね。無理にしなくても十分存在感確かめられるから大丈夫だよ。それに1段~2段登って写真撮る位なら何も言われないし一般観光客でもその石の大きさ確かめるためによくやってるしさ」

俺「う~ん。それに俺エロ本も持ってないしなぁ。没収されちゃったし」

A「こっちの人って日本人とか、アジア圏内のエロ本マジで欲しがるよね。やっぱイスラムの文化は厳しいのかもね。俺達は当たり前のようにエロ本とか見てるけどさ・・・・・・」

俺「はぁ・・・没収されてな・・・・あ!!!!

I「駄目だよ!俺のは駄目だよ!」

俺「Iさん、もう十分見飽きたじゃないですか!」

I「なに言ってるの!?ぷら君も十分お世話になったでしょ!?」

俺「そりゃそうですけど・・・」

I「絶対に絶対に駄目だからね!」

俺「分かりましたよ」

こうして俺達は宿へ戻ることとなった。

翌朝、ピラミッドへ向かうために早起きし、宿で出された昨日と同じ朝食を腹に入れる。

俺「あ、おはよ~」

A「おはよです。早いですね~、今日行くんですか?」

I「うん、これからピラミッド行ってくるよ」

A「じゃあ地下鉄がいいですよ。早いし安いしボラれないし」

俺「地下鉄で行くの?」

A「ギザまで地下鉄あるんで、そこからスグですよ」

I「ピラミッドと地下鉄かぁ。なんか変な感じだね」

朝食を終えた俺達はAの助言通り地下鉄でピラミッドを目指す事にした。宿近辺の駅から地下鉄に乗り込みギザ駅を目指す。カイロからピラミッドのあるギザまでは然程遠くもなくタクシーでも十分に行ける距離だがやはり地下鉄を使った方が早いし安いし効率的だろう。宿を出て炎天下の中地下への階段を下る。そして電車へ乗りこむ。ピラミッドまでは後少しだ。

考えてみるといつからか俺のこの旅でピラミッドは最終目的地になっていた。本当はインドのタージマハルだった。だがトルコから中東を南下することになり、想像もしていなかったルートを移動してきた。パムッカレ、カッパドキア、パルミラ、死海、エルサレム、嘆きの壁、ペトラ・・・。どれもこれも行くまで知らなかったものばかりだった。唯一名前を聞いて瞬時に思い浮かぶのはこのピラミッドだけだった。それが今目の前にある。俺の旅も終りに近付いているという証拠だ。短いようで長かった。何度涙を流したかわからない。色んな出会いもあった。恋もした。失恋もした。Iさんとの出会いがなければここまで来れなかったかもしれない。

俺は隣で釣り輪に掴まり地下鉄に揺れているIさんを見て感謝した。もうすぐピラミッドだ。文字通りこの地下鉄で向かっているギザこそが俺の旅の終着駅になるはずだ。懐にこっそり隠したIさんのエロ本をギュッと握りしめそんな事を考えていると不思議な感情が体を貫いた。


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ほどなくして電車はギザ駅へと到着した。

俺「着きましたね。いよいよピラミッドですね」

I「ほんと、いよいよだね。俺はずっとピラミッド目指して旅をしてきたんだ」

俺「そういえばIさんの旅の目的地聞いてませんでしたね」

I「目的地なんかないよ。俺はこの旅が人生で初めての旅なんだけどさ、最初出るまでは怖くて不安で仕方なかったんだよ。でも今までこうやって旅を続けていくうちに色んな経験してさ。日本で悩んでた事とか、凄くちっぽけに思えてきてさ。やればできるんだって思ったよ。ピラミッドを目指してって最初は思ってたよ。今でもそう思ってるけど最近はピラミッドがゴールって思わなくなったんだよね」

俺「どゆことですか?」

I「もっと旅をしたいって思う。最初はこの1回きりのつもりだったんだけど、もっと色んな世界を見てみたいって思うんだよ。だってさ、日本みたいな小さな島国で一生終えるのって勿体なくない?そりゃ海外旅行は身近なもんだから行く機会なんかいくらでもあるけど、それはやっぱりリゾートとかでしょ。ピラミッドを見るツアーとかもあるけどアホみたいにお金かかるし、添乗員についていくだけだしさ。だから俺はもっともっと色んな場所に行ってみたいんだよね」

俺「なんか分かる気がします」

I「贅沢な話だけどね。旅しててたまーにネットカフェなんかでメールチェックすると地元の友達からメールきてたりするんだよ。そいつは普通にサラリーマンでさ。子供はいないけど奥さんと共働きで頑張っててさ。いつも送られてくるメールは『体壊してないか?』とか『日本に帰ってきたら写真見せろよ!』とかでさ、応援してくれてて、俺の事を羨ましいって言ってくれるんだけど、俺自信としては『いいのかなぁ』って思うわけよ。だって俺等の年齢って普通結婚して子供いて、一生懸命働いてる年齢じゃん」

俺「そうですね・・・・」

I「だからなんか後ろめたくてさ・・・」

俺「はい」

I「駄目だ!しみったれた話になっちゃった!よし!行こう」

俺「はい!!でも1つだけいいですか?」

I「ん?」

俺「俺もIさんと同じ事思ってました。でも、俺は俺だって思うんですよ。うまく言えないですけど、自由って1番手に入れにくい物だと思うんですよ。金死ぬ程稼ぐ奴は金あるけど暇ないだろうし、暇持て余してる奴は金ないですよね?金なければ行動起こせないし。だから暇と自由は違うと思うんですよ。結婚したら旅なんか絶対出られないじゃないですか。だから俺達は今貴重な自由って時間を満喫できてるんだって考えるようにしてるんです。後の事は日本に戻ってから考えればいいんですよ」

I「なんかぷら君らしい意見だね」

俺「俺は今この旅を思いっきり満喫します!そんで帰国したら思いっきり仕事します!それでいいんじゃないかなって思います」

I「珍しくぷら君の意見に賛成できたよ」

俺「じゃ、行きましょう!!」

地下鉄の階段を上り駅の外に出ると少し遠目にピラミッドの頭が見える。

俺&I「おおおおおおおおおおおおお!!!」

先っぽを見ただけで俺達のテンションは既にピークだ。世界3大ガッカリにピラミッドの名前が入る事があるが、俺はそう思わない。ピラミッドにはやはり魅力がある。デカイは格好いい。俺の持論だ。

俺「ああああああああああ!Iさん、早く行きましょう!!」

I「うん!行こう行こう!!」

俺達は走った。
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