
タージマハルの中央門を目の前にして中に入らず2日間宿に引きこもっていたことにはワケがあった。初日の夜、偶然同じ宿に宿泊した日本人大学生グループと夕飯食べた時のことだった。久々に日本人と一緒の夕飯とのこともありテンション高めにビールを注文したりチキンを頼んだりと1人盛り上がっていたのだけれども、大学生さんのテンションが全然あがらない。
俺「なんか静かじゃね?」
大学生A「え?そうですか?」
俺「うん。なんかこう、もっと大学生ってはじけてるイメージだからさ」
大学生B「あーコイツ就職の事で悩んでるのひきずってるんですよ」
俺「なんかあったの?」
A「いや、卒業旅行ってことでインドきたんですけど戻ったら現実が待ってるなぁと思って」
俺「うーん、そんなもんじゃないの?」
A「なんか学生時代が終わるの凄く寂しいんですよね」
B「そんなの誰でも一緒だろーよ。ね?ぷらさん」
俺「まぁねぇ。俺は自営業みたいなもんだからこうやって時間作れるけど、そうでもないとなかなかこうやって旅したりとか出来ないもんなぁ」
A「はぁ・・・なんか鬱です」
俺「ほらほら、今はそんなこと考えないで思いっきり楽しもうよ」
A君は卒業後社会人になることに不安を抱いているようだった。考えてみると俺という人間は学生生活の延長のような生活をここ数年送ってきた。いやそれなりに仕事もしてきたけれど、冷静に考えてみると世の中の大多数の人は俺のように好き勝手できないだろう。それぞれ立場や仕事があるし、責任もある。夕食は早々におひらきとなり、俺は残ったビールを持って部屋へ戻った。ベッドにこし掛け、グラスを傾けながら随分とくたびれたバックパックを眺めると、ここ数年間の旅の思い出が一気に甦ってきた。そして思った。これまでの旅とこのインドの旅で決定的に違うことが一つだけある。俺のモチベーションが全然違うのだった。楽しめていないと言ったら嘘になる。感動がなかったといったらこれも嘘になる。ただ、南米ほど、中東ほど、東南アジアほど楽しめていないし感動が少ないのもまた事実だった。その日、なかなか寝付けなかった俺は受付で更にビールを2本注文し夜遅くまで1人思いにふけった。
翌朝、昼前に目が覚めた俺は荷物をまとめて宿をチェックアウトした。

変なヤギを横目に見ながらタージマハル中央門へと向かう。入り口で厳重なチェックをうけ、中に入ると既に観光客でタージマハルの中は溢れかえっていた。日本人観光ツアー客の姿も多く、ここタージマハルはインド最大の観光名所なんだなと改めて実感した。

タージマハルは1632年着工、1653年竣工。建材はインド中から1,000頭以上もの象で運ばれてきたといわれ、大理石はラージャスターン地方産という。その他、碧玉はパンジャーブ地方から、翡翠は遠く中国から、トルコ石はチベットから、ラピスラズリはアフガニスタンから、サファイアはスリランカから、カーネリアン(紅玉髄)はアラビアから取り寄せられたものだという。全体で28種類もの宝石・宝玉が嵌め込まれていた。ペルシャやアラブ、果てはヨーロッパから2万人もの職人を集め、22年の歳月をかけて建造された「世界一ゴージャスな建物」とも云われる。名前の由来は不確定ながら、王妃の名を縮めたものではないかという説が有力である。ムムターズ・マハルはペルシャ語で「宮殿の光」、「宮廷の選ばれし者」を意味する言葉であり、第4代皇帝ジャハーンギールから授けられた称号である。彼女の本名はアルジュマンド・バーヌー・ベーガムという。タージ・マハルを言葉どおりに訳せば「王冠宮殿」もしくは「宮殿の王冠」という意味になる。1983年にユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録され、2007年に新・世界七不思議に選出された。(wiki抜粋)
2時間程かけてタージマハルを眺めたあと、俺はデリーへ戻るために駅へ向かうことにした。
男「やぁ、どこに行くんだい?」
俺「あー、駅に行こうと思って」
男「どこに向かうんだい?」
俺「デリーだよ」
男「デリー?デリーへの列車は夜だぞ?今行ったって列車はないさ」
俺「そうなの?」
男「なぁ、アーグラはタージマハルだけじゃないんだ。他にもいい所がいっぱいある。どうだ?夜の時間まで俺が色々連れてってやろうか?ベビータージ、アーグラ城はもう見たのかい?」
俺「ううん。まだだけど別に見なくていいかなぁ〜って」
男「何を言うんだ!勿体無い!ほら、乗れ!すぐ連れてってやる!」
俺「えー。なんか面倒だからいいよ。それにどうせ高い金取るんでしょ?」
男「100ルピーでいい!これ以上貰わないよ」
俺「100でいいの!?」
男「ああ!勿論さ!」
俺「ふーん。じゃあ行ってもいいかな」
男「よし!乗れ」
こうして行く予定も無かったが俺はおっさんのリキシャへと乗り込んだ。おっさんは最初にアーグラ城へ向かうようだった。リキシャを漕ぎながら説明をしている。話半分に聞いていたが、どうやらアーグラ城はタージマハルを作った王様が息子に幽閉された場所らしい。その牢獄から自分の妻の墓として建てたタージマハルを終生眺めて過ごしたのだとか。
なんだその悲しい建物は・・。おっさんは観光が終わるまで入り口で待ってると言うので俺は中に入りこれまたタップリ1時間程中を見て回った。川を挟んで遠くに見えるタージマハルは綺麗であったが、これをどんな気持ちで時の王様は眺めたのかと思うと空しいものであった。観光を終え再び入り口に向かうとおっさんがニコニコと俺に手を振っていた。
俺「お待たせ。うん、なかなか良かったよ」
男「そうだろ?嘘は言わなかったろ?よし!次はベビータージを見に行こうか!
また100ルピーでいいからな」
俺「は!?」男「ここからベビータージまで100ルピーでいいって言ってるんだよ」
俺「おい待てよ。お前全部見て回って100ルピーって言ったろ」
男「冗談言わないでくれよ。ここまでだってタージマハルから随分遠かったんだ。本来なら200ルピーはもらうところだぞ?」
俺「いやいやお前さっき言ったよな?」
男「何を言うんだ。俺は本来タージ付近で客を集めてるんだ。もしお前がここでいいって言うなら俺がタージまで戻る代金を貰うぞ。お前を待ってた時間だってあるんだ」
俺「言いたい事はそれだけかクソ野郎」
男「なんなんだお前は!なぁ?皆、こいつ金払わないんだよ!」
インドB「お前どこから来たんだ?」
俺「タージからだけど」
C「あータージから100は安いわ。払ってやれよ」
俺「おいお前等関係ないだろ。俺はこいつと1日中見て回って100って契約したんだよ」
男「100でなんか回れるわけないだろ」
俺「お前が言ったんだろうが!!!」
男「じゃあいい。俺はタージに戻る。だからここからタージまでの200ルピー払え。合わせて300だ」
俺「はぁ!?なんで俺が乗らないのに払わなきゃならねぇんだよ!」
男「お前が契約を破棄したからだ!」
俺「じゃあなんだ?お前がここから戻る金が200だって言うのか?」
男「そうだ!」
俺「それってお前が漕ぐからだよな?お前が疲れるからだよな?」
男「ああそうだ!」
俺「よし。俺が漕いでやるわ。乗れ」
男「おいおい何してるんだお前」
俺「黙って乗れこのクソ野郎!!」
男「おい・・・そんな怒るなよ冗談だよ・・」
俺「黙れ!!乗れっつったら乗れ!!俺が漕いでやるわ!」
男「待ってくれ。分かった。リキシャは免許が必要なんだ」
俺「俺は国際免許持ってるからいいんだよ(嘘)!早く乗れ!」
B「がははは。面白い日本人だな。いいぞ、乗ってやれよ」
男「マジかよ・・・」


そして俺はおっさんを乗せてタージマハルまでの道を漕いだ。
俺「よし。これでチャラな」
男「・・・・。あの・・・100ルピーせめてくれんかな」
俺「黙れ。お前がこれでいいって言ったんだ」
男「・・・・・」
俺「じゃあな」
おっさんを振り払い、道を歩いていると即別のリキシャから声がかかる。
男「おーい、どこに向かってるんだ?」
俺「駅だよ駅」
男「フォートは見たか?ベビータージに行かないか?」
俺「もーいいよ」
男「じゃあとっておきの場所があるんだ。対岸からタージマハルを眺められるんだが行かないか?入場料もかからないし人もいないから最高の場所だぞ」
俺「いくら?」
男「100でいいよ」
俺「またかよ。んじゃさ、そこ見てから駅まで送ってよ。150でいいからさ」
男「いいぞ」
俺「揉めるの面倒くさいから前金な。ほれ」
男「よーし行くぞ」
それから連れて行ってもらった場所は本当に良かった。実に穴場であった。人も少なく、俺は陽が落ちて夕方になるまで河辺でチャイを飲みながらボーっとタージを眺めた。真っ白な大理石が夕陽で徐々にオレンジに染まっていく。

このタージを眺め、俺のインドの旅は終わった。
帰国後、両親にオーロラの写真を見せてくれと言われて見せたタージの写真。親は終始無言だった。